2020年、世界中に轟いた「ブラック・ライヴズ・マター」の呼びかけ。その声をただしく聴き取るには、人類史に沈殿する人種差別、植民地主義、奴隷制の記憶を辿りなおすことが不可欠だ。
本書は、ブラック・インターナショナリズムやネグリチュードに参画した二〇世紀知識人の交流をはじめ、セゼール、ファノン、ギルロイ、グリッサン等、大西洋を横断しながら思考した〈ブラック・ディアスポラ〉たちの歴史を紡ぎなおし、新たな思想航路を描こうと試みる。アフリカからアメリカスへ、カリブ海からヨーロッパへ――政治や文学などあらゆる手段をもって、みずからの「言葉」と「場所」を追い求めた先人たちの多彩な闘いの先に浮かび上がる、解放へと開かれた情景を探る。
『カリブ‐世界論』でカリブ海諸国から西洋政治文化の歪みを逆照射し、『野蛮の言説』では人種差別・優性思想の観点から近代的知を揺さぶった著者による、環大西洋思想のうねりを〈発見〉し続けるための壮大な文学論。